50億ドルと31%増が示すもの――半導体業界で研究開発への投資が加速
半導体業界に資金が集中しています。SEMIは300mm工場の設備投資が2026年に前年比31%増の1,490億ドルに達すると予測し、ASMLは第3四半期の売上高117億ユーロを報告しました。同じ週、Applied Materialsは50億ドルの共同研究施設「EPICセンター」を公開し、素材から量産化までを一カ所で進めるモデルを打ち出しました。資金は研究開発のあり方自体も変えつつあります。
設備投資は2026年に前年比31%増の1,490億ドルへ
業界団体SEMIは10月13日、半導体製造装置の見本市SEMICON Westに合わせて、300mmウェハーファブ向けフロントエンド設備投資の見通し「300mm Fab Outlook」を発表しました。それによると2026年の投資額は1,490億ドルで前年比31%増、2029年には2,270億ドルに達する見込みです。
SEMICON Westの会期には半導体市場の年間売上規模が1兆ドルの水準に達したとの報道も重なり、業界の議論は需要の持続性と次の制約条件に向かいました。設備への支出がこの規模で続くという予測は、裏を返せば需要側の拡大が供給側の能力を押し上げているということでもあります。その構図は装置メーカーの決算からも確かめられます。
ASMLの決算に映る「供給が需要に追いつかない」構図
ASMLは10月14日、2026年第3四半期の決算を発表しました。四半期の売上高は117億ユーロ、粗利益率は57.5%、純利益は50億ユーロでした。合わせて2026年通年の業績見通しを上方修正し、売上高見通しは440億〜450億ユーロに引き上げられたとBenzingaなどの金融メディアが報じています。
この決算で重要なのは短期的な数字よりも、需要と供給の関係についての説明です。ASMLは決算に合わせて、2027年から2028年にかけては現在の供給計画では顧客需要に応えきれない可能性があると述べました。EUV露光装置の供給者が同社1社であることを踏まえると、需要側の設備投資計画が供給側の生産能力を上回り始めていることになります。1,490億ドルという設備投資の見通しは需要を満たすための支出であると同時に、装置産業の能力が上限に触れれば頭打ちになるという構図も内包しています。
50億ドルのEPICセンターが取り除く「直列開発」の壁
Applied Materialsは10月12日、カリフォルニア州サニーベールに建設した研究施設「EPICセンター」を公開しました。投資額は50億ドル。延床面積は約60万平方フィート(約5.6万平方メートル)で、クリーンルームは約4エーカー(約1.6ヘクタール)を数えます。同社の発表によれば、半導体の装置とプロセス技術の共同研究開発に特化した施設としては世界最大です。
施設が狙うのは開発手法そのものの変更です。従来の半導体研究開発では、素材の基礎研究、装置とプロセスの開発、統合とパイロット生産が別々の環境で進み、各段階の引き継ぎに時間がかかってきました。EPICセンターはこの引き継ぎ自体をなくし、素材を発明する研究者、装置を作る技術者、チップを作る開発担当者を同一施設に置く設計です。半導体製品グループのプラブ・ラジャ責任者は「今日の原子スケールの寸法では、多くの材料と材料界面がまったく新しい振る舞いをする」と述べ、並行開発の必要性を強調しています。
参加企業と研究機関の顔ぶれも特徴的です。設立パートナーはTSMC、Intel、SK hynix、Micron、Samsung Electronics。Broadcom、Advantest、SCREEN、KIOXIA、Besiがイノベーションパートナーとして加わり、Arizona State University、Rensselaer Polytechnic Institute、Stanford University、UC Berkeley、UCLAの5校が研究パートナーに名を連ねます。
TSMCの魏哲家(C.C. Wei)CEOは、30年前の先端ノードが350nmだったのに対し現在は2nmであり、微細化が175倍進んだと指摘しました。Intelのリップ・ブー・タン(Lip-Bu Tan)CEOは、2030年までに1パッケージあたり1兆トランジスタを超える道筋を同社は見ていると述べ、研究開発コストの上昇を背景に装置メーカーとの距離を縮める意義を強調しています。いずれも自社の事業環境を踏まえた発言であり、業界全体の見通しをそのまま示すものではありません。
大学が量産技術の隣に研究室を構える意味
研究環境の変化を最もよく示すのが大学の参加です。5つの研究パートナーは施設内に人員を置き、Applied Materialsの技術者や装置メーカー、チップメーカーの開発者と同じ場で研究を進めます。大学では最先端の製造装置に触れる機会が限られており、企業側も基礎研究との接点を早い段階で持てる利点があります。
この構図は研究開発費の巨大化と表裏一体です。IntelのCEOが述べたように研究開発コストは上がり続けており、1社で全段階を抱える従来型の開発モデルの維持は難しくなっています。50億ドルという施設投資は共同利用という形で開発コストとリスクを分担する仕組みへの移行と読むことができます。
一方で、拡大する投資には制約条件も見え始めています。SEMICON Westでは電力が次の壁になるという指摘が報じられ、ASMLの決算も供給能力の限界を示しました。研究開発モデルの再設計と供給制約への対応が、1兆ドル規模に達した産業の次の数年を占う焦点になりそうです。


