「AI」から「SI」へ――米大統領令が変えるもの、変えないもの

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米ホワイトハウスは9月29日、行政機関の公文書で「AI」に代えて「Super Intelligence(SI)」の使用を求める大統領令14434号に署名した。法令上の定義は当面変わらず、60日以内に連邦SI定義の立法案文が大統領へ提出される。同じ週にはDOEが最大4億ドルの基礎研究公募を発表しており、米国の科学技術政策は用語と資金の両面で動いている。

大統領令14434号が求める「SI」への用語置換

2026年9月29日、トランプ大統領は「Inaugurating the Era of Super Intelligence(超知能の時代の幕開け)」と題する大統領令14434号に署名した。ホワイトハウスの公文書によれば、行政各府省庁は「法律で許される最大限」の範囲で、公文書・広報・ウェブサイト・報告書・政策文書などの非法令文書において「Artificial Intelligence」「AI」の代わりに「Super Intelligence」「SI」を使用する。あわせて政権の方針として、適用される場面では「AI」の使用を「承認しない」とも明記している。

目的条項では、現代のAI分野は米国で生まれ、今日のフロンティアシステムは人間の知能の模倣を超えて創造性を増幅する存在だと位置づけ、「もはや単なる人工知能ではなく、超知能の新時代を代表する」と述べている。これは政権による評価・主張であり、技術的な定義として確立したものではない点に注意が必要だ。

法令上の定義は当面変わらない

注目すべきは、この大統領令が用語の置換を求めながらも、法令上のAIの定義には手を付けていない点だ。第3条は「SI」を、合衆国法典15編9401条(3)に定める「artificial intelligence」が包含する技術・システムと同一の範囲と定義している。つまり現段階では、SIはAIの別名であり、対象となる技術の範囲は変わらない。

また第2条(b)項は、既存の規則、過去の大統領令、契約、助成金、その他の歴史的文書の変更を求めないとしている。この結果、法令や既存文書は「AI」のままで、新規の行政文書だけが「SI」になるという二重構造が生じる。たとえば2026年6月の「Promoting Advanced Artificial Intelligence Innovation and Security」など、先行するAI関連の大統領令群は改称されない。

このねじれについて、業界紙IAPPは各府省庁の用語が一斉に切り替わる影響を報じ、Forbes誌に掲載された法律解説は、改名に伴う想定外の法的課題を指摘している。大統領令自身が「法律で許される最大限」と但し書きを付けていることからも、法令改正を伴わない用語置換の限界は政権側も織り込んでいると読める。

60日以内に提出される「連邦SI定義」の立法案文

実質的な焦点は、大統領令第3条(b)項が命じた立法案文の提出にある。大統領科学技術補佐官(APST)は署名から60日以内、つまり2026年11月下旬までに、他府省庁の長と協議のうえ、連邦レベルの「SI」定義を確立する立法案文を大統領に提出する。案文には、(1) SI定義が既存の法定AI定義を修正・拡張・代替すべきかの評価、(2) 法令中の「AI」参照に対する整合的な改正案、(3) 追加の行政府措置の勧告——の3点を含めることが求められている。

提出される案文次第では、用語の変更にとどまらず、連邦法に組み込まれたAIの定義そのものの見直しに議論が及ぶ可能性がある。あくまで「提案」であり、立法には議会の関与が必要だ。ただし政権はファクトシートの中でこの用語変更を技術の「変革的な能力」を反映するものだと公式に位置づけており、政権のAI政策の枠組みを再定義する意図がうかがえる。

用語変更が政策運用に波及しうる3つの経路

大統領令の直接の効果は行政文書の表記に限られるが、運用面への波及は無視できないと考えられる。第一に調達と公募だ。各省庁の報告書、ウェブサイト、資金公募の案内が「SI」表記に切り替われば、企業や研究機関は新旧両方の用語を追う必要がある。第二に規制の整合性だ。前述の通り既存の大統領令や規則は「AI」のまま残るため、文書間の相互参照が煩雑になる可能性がある。第三に国際整合性だ。EUのAI規則やOECDの基準は「AI」の用語を用いており、米国行政の公式用語が分岐すれば、国際文書との対応関係の整理が課題になると考えられる。

これらはいずれも現時点での解釈であり、実際の影響は各府省庁の実施状況と、60日後に提出される立法案文の内容を見て判断する必要がある。

同じ週、DOEは最大4億ドルの基礎研究公募を発表

用語の議論と並行して、資金面でも動きがあった。米エネルギー省(DOE)は10月1日、科学局(Office of Science)の年次公募「Open Call」として最大4億ドルの基礎研究資金を発表した。DOEの発表によれば、対象は高度科学計算研究、基礎エネルギー科学、生物学・環境研究、核融合エネルギー科学、高エネルギー物理学、核物理学、同位体研究開発・生産の7プログラム。科学担当次官ダリオ・ジルは「基礎研究こそが米国の未来を形づくるブレークスルーの起点だ」と述べている。

DOE科学局は米国の物理科学分野における最大の連邦基礎研究支援機関で、数百の大学の研究を支え、10の国立研究所を統括する。今回の公募は2025年5月の大統領令「Restoring Gold Standard Science」の実施として位置づけられている。

用語の刷新と基礎研究への資金拡張。方向性は異なるように見えて、どちらも「米国の科学技術リーダーシップ」という同じ旗の下にある。名称が何を指すのかは60日後の立法案文で、実質がどこに向かうのかは4億ドルの行き先で、それぞれ確かめることになるだろう。

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