ベピコロンボ、11月21日に水星周回軌道投入──8年の旅が最終段階に入った

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ESAとJAXAの共同水星探査機ベピコロンボが9月3日、8年間の旅を支えてきた水星移送モジュール(MTM)の分離に成功した。次の山場は11月21日の水星周回軌道投入で、12月に2機の科学探査機がそれぞれの軌道へ分かれ、2027年4月から本格観測が始まる。約半年に及ぶ到達シーケンスと、旅を支えてきた技術をESAの発表をもとに整理する。

ドップラー信号が告げた別離、8年間の推進役割を完遂したMTM

2026年9月3日、ドイツ・ダルムシュタットのESA宇宙運用センター(ESOC)で、ベピコロンボの到達フェーズが始まった。現地時間14時20分(CEST)、地上との通信に現れたドップラー偏移の変化からモジュール分離の最初の兆候がとらえられ、15時49分、地球から2億km以上離れた位置でMTMの分離成功が確認された。宇宙機運用マネージャーのイグナシオ・クレリゴ氏は「嬉しくもあり、同時に安堵している。完璧な分離だった」とESAの発表で述べている。確認の信号は、スペイン・セブレロスとアルゼンチン・マラルグエにあるESAの深宇宙局2局が受信した。2億km彼方での重要な分離には、リアルタイムの介入の余地がないため、綿密な計画と航法、指令の作り込みが求められた。また、分離の兆候を最初に示したドップラー偏移は、救急車が近づくほどサイレンの音程が変わるのと同じ原理で、探査機の速度変化を捉える仕組みだ。分離後、残された探査機スタックは一時セーフモードに入って姿勢を立て直し、状態を地上へ送信した。

分離されたMTMは小型車ほどの大きさで、全長15mの太陽電池パドル2枚とイオン推進器4基を搭載していた。打ち上げ時の探査機全体の質量は4,100kgである。太陽光でキセノンガスをプラズマ化し、連続的な弱い推力を生み出す太陽電気推進(SEP)が、2018年10月20日のアリアン5ロケットによる打ち上げから、地球1回・金星2回・水星6回の計9回の惑星スイングバイと約99億kmの航程を支えた。SEPは2026年6月15日に運用を終了している。3基の監視カメラを備えたMTMは巡航中、ほぼ毎日スナップショットを撮り続け、9月3日には旅の終わりを飾る最後のセルフィーを残した。画像はESA惑星科学アーカイブで公開されている。自前のアンテナも計算機も持たないMTMは、今後も太陽周回軌道に留まり続ける。

なぜ水星への「到着」に6カ月もかかるのか

水星への到達は、単一のイベントでは完結しない。ESAは今回の到達フェーズを「ESAがこれまでに試みた中で最も複雑な惑星到達シーケンスの一つ」と位置づけている。MTM分離の時点で探査機は水星までなお300万km以上の距離にあり、これからMPO(水星惑星探査機)の化学推進で軌道を微調整しながら、11月21日の周回軌道投入を迎える。

水星が「到着しにくい」惑星なのは、太陽に近い内惑星だからだ。太陽の重力に引かれて落ちていくほど探査機は加速し、水星に追いついてその周回軌道に捕まるには、莫大な運動エネルギーを捨てなければならない。ESAはこの減速を推進剤の大量消費ではなく惑星スイングバイで実現するため、8年がかりの巡航設計を採用した(ESAミッションページ)。

電力低下が旅の設計を書き換えた経緯

この旅は順風満帆ではなかった。ESAの発表によれば、MTMの太陽電池パドルから得られる電力が低下する問題が発生し、ミッション途中で軌道の再設計を余儀なくされた。運用チームは軌道を適応させ、水星到達の目標を維持した。英WIREDは9月21日の記事で、この問題によって到達時期が約1年後ろへずれたと報じている。9月3日の分離成功は、再設計された軌道の妥当性を裏付ける結果でもある。

11月21日の軌道投入の先にある「2機同時周回」

軌道投入後の工程も緻密に組まれている。11月21日に探査機複合体が水星の周回軌道に入った後、12月9〜10日にJAXAの水星磁気圏探査機「みお(Mio)」が分離される。ESAの到達フェーズ最新情報によれば、MPOは2027年3月に最終的な科学軌道へ移行し、2027年4月から2機による本格的な科学観測が始まる。1つの惑星を2機の探査機が同時に周回するのは、水星を対象としては初めての試みだ。役割分担も決まっており、MPOが惑星の表面や内部を、みおが磁気圏を中心に観測する。

観測の狙いは、灼熱の惑星の極にあるクレーターになぜ水氷が存在するのか、水星がなぜ磁場を持つのか、地表に見られる「ホロウ(窪み)」の正体は何かといった、水星の長年の謎に迫ることだ。9月9日にはオランダ・ハーグで開かれた欧州惑星科学会議(EPSC2026)の報道説明会で、ESAとJAXAのプロジェクトチームが探査機の状況と今後の工程を説明した。ESAの到達フェーズ最新情報によれば、説明会の映像は9月中旬に公開されている。JAXA側のプロジェクトサイエンティスト、村上剛氏は「次はみおの分離となる。MTMの分離成功を見て、この先に対して自信を持っている」と述べており、ESAのサンタ・マルティネス・サンマルティン・ミッションマネージャーも「到達フェーズの完璧なスタートだ」とチームを讃えた。

水星を周回した探査機は、NASAのメッセンジャー(2011〜2015年に周回)だけで、ベピコロンボは史上2機目となる。ESAは水星を「内太陽系で最も探査が進んでいない惑星」と位置づけ、その成り立ちを知ることが太陽系全体の歴史の理解につながると強調している。巡航フェーズと6回の水星スイングバイでも科学的なデータは得られており、主眼の観測は軌道投入完了後の2027年4月以降に本格化する。8年かけた旅の成果が実るかどうかは、11月21日の軌道投入と、その後の分離シーケンスにかかっている。

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