恒星を1日で周回する溶岩惑星に大気の証拠、ウェッブ望遠鏡が観測
地球から154光年にある「溶岩惑星」HD 3167 bについて、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外観測が大気の存在を示す強い証拠をとらえた。大気のない場合の昼面の理論上の最高温度を明確に下回っており、大気による熱の輸送があったと考えられるという。大気の証拠が報告された超高温の地球型惑星はこの惑星を含め5例で、溶岩惑星としては最低温の例だ。シカゴ大学の研究チームが査読付き学術誌で報告した。
恒星を1日で一周する。それがHD 3167 bの置かれた環境だ。地球から154光年離れたうお座方向にあるこの惑星は岩石質の「スーパーアース」に分類され、恒星に面した昼側の表面は岩石が溶けた状態にあるとみられる。筆頭著者はシカゴ大学大学院のブランドン・パーク・コイで、研究は2026年、The Astrophysical Journal Letters(1005巻L77、DOI: 10.3847/2041-8213/ae7f23)に掲載された。
昼面が「冷たい」ことが大気の存在を示す
観測に使われたのは「二次食」と呼ばれる手法だ。惑星が恒星の背後に隠れる瞬間、観測される光がどれだけ減るかを測ると、その差から惑星自身が放つ中間赤外線の量、つまり昼面の温度を見積もれる。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は中間赤外線でのこの種の観測を得意とし、研究チームはこの能力を利用した。
ここからが論理の核心になる。大気をもたない岩石惑星の昼面は、表面の反射率と恒星からの距離だけで決まる理論上の最大温度まで熱せられるはずだ。ところが大気があれば、昼側の熱を夜側へ運んで温度差をならす。金星では昼と夜、赤道と極で表面温度がほとんど変わらないことが知られている。加えて、大気があれば雲が恒星光を反射して昼面を冷やす効果もありうる。つまり、昼面が理論上の最大値より明確に低い温度しか示さなければ、大気が存在したと疑う根拠になる。
シカゴ大学の発表によれば、HD 3167 bの昼面は期待される最大温度より明確に低く、研究チームはこれを「大気の存在を示す強い証拠」と位置づけた。ただしこの手法は温度測定に基づく間接的な証拠であり、大気そのものを直接とらえた画像ではない。
大気をもつ岩石惑星は数えるほどしかない
系外惑星のカタログには6,300個を超える惑星が登録されているが、その大部分は岩石惑星ではなく、岩石惑星のなかで大気をもつとみられるものはごくわずかだと、シカゴ大学の発表は説明する。そのなかで大気の証拠が報告された5例の地球型惑星は、この研究の対象を含めていずれも超高温だったという。
HD 3167 bは、それらのなかでは最も低温の溶岩惑星だ。ここが重要な点だと研究チームは強調する。先行する4例がいずれも超高温側に偏っていたため、ケイ酸蒸気の大気が厚くなり始める「臨界温度」がどこにあるのかを絞り込めなかった。より低温側の惑星のデータが加わることで、大気の有無が入れ替わる温度帯を特定しやすくなるという。
大気の正体は岩石の蒸気か、それとも重い気体か
溶岩惑星の大気については、溶けた岩石が蒸発してできたケイ酸質の大気というのが従来の想定だった。HD 3167 bも地表の組成は地球のマントルに近いケイ酸塩に富むものと研究チームはみている。一方で、超高温惑星のなかには二酸化炭素や一酸化炭素、水といったより重い気体の証拠が現れ始めた例もあるとされる。
HD 3167 bの大気の組成は、現時点ではまだ特定されていない。同大学の発表でも「大気の構成はまだ分かっていない」と明言されており、組成を調べるための追加観測が次の課題とされる。
10惑星を巡るサーベイが探す「臨界温度」
この結果は、メリーランド大学のミーガン・ワイナー・マンスフィールドが率いる観測プログラムの最初の成果だ。プログラムは超高温の溶岩惑星10個を観測し、どの温度を境に惑星が大気をもつようになるのかを調べることを目標にしている。
論文の共同著者でシカゴ大学のエドウィン・カイト准教授(地球物理科学)は「岩石惑星は恒星に近いほど、恒星風の衝撃と高エネルギー光子の照射で大気を保つのが難しくなるはずなのに、溶岩惑星の多くは大気をもっているらしい」と指摘する。恒星の至近距離を1日で回る惑星に大気が残っているという観測結果は、岩石惑星の大気がどう保持され、失われるのかを説明する理論に対して、重要な制約を与えることになりそうだ。
初期地球のマグマオーシャンを映す鏡
溶岩惑星は生命にとって居住不能な高温である。それでも研究する価値があると同チームは強調する。誕生直後の地球は、微惑星同士の衝突エネルギーによって表面全体が溶けた「マグマオーシャン」の段階を経たと考えられており、溶岩惑星はその環境を現在の宇宙で直接調べられる数少ない対象だからだ。HD 3167 bのような観測は、地球史の最初の数百万年の条件を探る窓になるという。
生命の探査という観点でも意味はある。大気は液体の水を表面に保つ前提条件であり、岩石惑星が大気を保持する条件を知ることは、どこを探すべきかを絞り込むことにつながる。昼夜の温度差しかまだ見えていないHD 3167 bの大気だが、追加観測で組成が判明すれば、岩石惑星の大気進化の描像は一段具体性を帯びるはずだ。


