ESA・JAXA探査機ラムセス、初の電源投入で統合試験段階へ
ESAとJAXAが共同開発する惑星防衛探査機ラムセスについて、ESAは9月23日、主契約企業がイタリア・ミラノのクリーンルームで初めての電源投入を完了したと発表した。機体は2028年春に日本のH-3ロケットで打ち上げられ、2029年4月13日に地球へ接近する小惑星アポフィスと会合する。契約から打ち上げまで3年半足らずの開発計画が、実機を動かす統合試験の段階に入った。
契約から打ち上げまで3年半という制約
ESA(欧州宇宙機関)は2026年9月23日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同ミッション「Ramses(ラムセス)」について、主契約企業による探査機の初電源投入を完了したと発表した。
発表によれば、ラムセスは「クルーズ船並みの大きさ」と形容される小惑星アポフィスが2029年4月13日(金曜日)に地球の近傍を通過する際に会合するため、2028年春までに宇宙に到達しなければならない。ESAは契約締結から打ち上げまでの期間を「3年半足らず」としており、時間的制約の厳しい開発スケジュールだとしている。
会合の対象となるアポフィスの接近日はあらかじめ決まっている。このため、打ち上げの機会を逃せば2029年4月の観測自体が成立しないと考えられ、スケジュール厳守が開発全体を貫く前提になっている。
初の電源投入が確かめたこと
ミラノにある主契約企業OHB Italiaのクリーンルームでは、主要電子機器を収めるコアモジュールの組み立てが進められている。ESAによると、U字型の機体構造内に主要ユニットを搭載し、ハーネスと呼ばれる配線類で結合したうえで、機上計算機(On-Board Computer)と統合されたサブシステム一式に初めて電力を供給したという。
今回の電源投入によって、機体単位の統合機能試験が可能になった。ESAのラムセス主任エンジニアIngo Gerthは「これらのユニットは個別に試験済みだったが、それ単独での話だった。今回は初めて実際の統合機能試験を行うことができ、計算機を介して各サブシステムにコマンドを送り、その性能を検証できる」と説明している。
統合されたサブシステムには、観測データを保存するマスメモリユニット、機体全体に電力を分配する電力調整・分配ユニット、機器の出力を計算機向けのデジタルデータに変換する複数のリモートターミナルユニットが含まれる。
主契約企業側でも、OHB ItaliaのラムセスプロジェクトマネージャーGiuseppe Filomenoが「この最初の統合電源投入は、ミラノの施設で宇宙機が動き始めたことを示す重要なマイルストーンだ。機上計算機の起動と、結合されたユニット間の通信確立によって、統合システムが意図どおり連動していることの最初の具体的な裏付けが得られた」と述べている。
ESAのラムセスプロジェクトマネージャーPaolo Martinoは「この瞬間からプロジェクトはまったく新しい段階に入る。それ以前のすべては紙上の計算、シミュレーション、ユニット試験にすぎなかった。いまや実際の宇宙機があり、本格的な統合システム試験を開始できる」と述べている。また機能アーキテクトのArnaud Bourdouxは、今回電源を入れたのと同じシステムクリティカルなユニットを、打ち上げパッド上でも同じ手順で起動することになると説明した。
イタリアとドイツ、2か所で並行する組み立て
工期を短縮するため、ラムセスは機体を2つのモジュールに分け、2か所で並行して組み立てられている。
コアモジュールはミラノで、機体中央の円筒コアのダミー(実寸模型)を芯に組み立てが進められている。一方、炭素繊維強化ポリマー製の実際の中央コアを含む推進モジュールは、ドイツ・ランポルトスハウゼンにあるArianeGroupの軌道推進センターで、推進剤タンクやセンサー、アクチュエータ、配線類の取り付け作業が進められている。
2つのモジュールは来春、オランダ・ノールトワイクにあるESAのESTEC試験センターで結合される。ここから飛行前試験の段階が始まる。
残る関門は熱真空試験とミッションシミュレーション
今後の試験について、ESAのラムセスシステムエンジニアFranco Perez Lissiは「打ち上げと宇宙での運用でラムセスが経験するすべての条件を再現する」と説明する。中でも厳しいのは熱真空試験で、完成した宇宙機全体を2〜3週間にわたって宇宙並みの真空環境に置き、連続運用するという。同様に難しいのが、打ち上げからミッション終了までの一連の流れを早送りで実行するミッションシミュレーション試験だ。
ESAとJAXAのラムセスミッションと、随伴する2機のCubeSatは、2028年春に日本のH-3ロケットでの打ち上げに間に合わせる必要がある。
初の電源投入は、開発全体から見れば初期段階の出来事にすぎない。ただ、すべての判断が図面上の議論だった時期から、実際の機材にコマンドを送って応答を確かめる時期へ移ったことの意味は小さくないと考えられる。残された期間で熱真空試験などの関門を一つずつクリアできるか。アポフィス接近まで2年半強——まずは来春のモジュール結合が次の節目になる。


