ウェブ望遠鏡が初めて描いた、朝と夕で約650K違う歪んだ大気の輪郭

約 5 分で読めます

ジェイムズ・ウェブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測に「伝送弦」という新しい解析手法を適用した結果、約1,300光年先のホットジュピターWASP-17bの大気が朝側と夕側で約650Kの温度差をもち、非対称に膨らんでいることが明らかになった。2026年10月14日にNature Astronomyへ掲載されたこの研究は、大気循環理論が長く予測してきた朝夕の温度差を、輪郭の空間マップとして初めて直接確かめた成果である。

恒星のすぐ近くを回る巨大ガス惑星、いわゆるホットジュピターは、恒星に照らされ続ける昼側と永遠に影の中の夜側を持ち、極端な温度差にさらされる。こうした世界の大気は、描かれる際はいつも滑らかな円だった。惑星が恒星の前面を通過する際、大気の縁(リム)を透過した星光のスペクトルから組成を調べるトランジット分光では、リム全体の情報を1本の平均スペクトルに混ぜるのが従来のやり方で、輪郭の形そのものを問う発想は乏しかった。

その前提を変えるのが、ブリストル大学のデイビッド・グラント博士とハンナ・ウェイクフォード博士が開発した「伝送弦(トランスミッション・ストリングス)」という手法である。リムを角度ごとの小区間に分け、方角ごとに大気がどこまで広がり、温度がどれだけ違うかを取り出す。研究を主導したコーネル大学のリリ・オルダーソン博士は「これまで指輪として扱っていたものから、指輪のどの位置に宝石があるかを理解できるようになった」と表現する。この研究はコーネル大学(米国)とブリストル大学(英国)の共同主導で進められた。オルダーソン博士はブリストル大学で博士号を取得しており、調査は同校在籍中に始まった。

観測データはJWSTの「TST DREAMS」保証時間観測プログラムによるもので、0.6〜12μmの波長域を複数の観測装置でカバーしている。惑星が恒星面を横切る間、リムの各部分は恒星円盤上の異なる位置を通過する。この幾何を利用して通過光を角度ごとに分解すると、方角ごとに大気が恒星の手前までせり出す距離の違いが浮かび上がる。昼側を調べる「食マッピング」が惑星が恒星の背後に隠れる瞬間を捉えるのに対し、伝送弦は恒星の手前を通るトランジットを使う点が対称的で、両者は補い合う関係にある。

約650Kの朝夕差は、熱を運ぶジェットの痕跡

解析の結果、WASP-17bの大気は全体としてほぼ円形でありながら、赤道付近で明確に歪んでいることが分かった。恒星を常に向いた昼側から夜側へ熱を運ぶ赤道のジェット気流のために、夕側のリムは暖かく外へ膨らみ、夜側を回って冷えた朝側のリムは縮んでいる。大気の厚みを決める温度スケール高度が、リムの周囲で明確に切り替わる形で観測された。

数値は理論の予測と重なった。リムの温度は朝側が858K(誤差+434/−233K)、夕側が1522K(誤差+116/−114K)で、差は約650Kに達する。ただし朝側の誤差幅が+434Kと大きく、値そのものの不確かさは残る。また水(H₂O)と二酸化炭素(CO₂)の存在量はリムの周方向でほぼ一定という制約も得られ、全球循環モデルの結果への観測的な束ね役を果たしている。

理論が正しかったことを「見る」意味

朝側と夕側に温度差が生じるという予測は、ホットジュピターの大気循環を扱う理論と数値モデルが長年掲げてきたものだ。オルダーソン博士は「理論は朝側と夕側に強い温度差を予測しており、WASP-17bはその傾向にほぼぴたりにはまった」と述べる。ブリストル大学の発表によれば、この結果は夜側からの放射観測や昼側の食マッピングとも整合し、1つの系外惑星について複数の独立な手法が揃った、これまでで最も包括的な観測セットという位置づけである。

「惑星は実際には3次元の物体であり、恒星の周りを回るにつれて予測どおりのことが起きている。計算機上の練習から出て、それを実物で確かめられたことの意義は大きい」とオルダーソン博士は強調する。

6,000個の系外惑星へ広がる立体天気図

WASP-17bは、これまでに6,000個以上が確認された系外惑星の比較基準(ベンチマーク)としても役立つ。伝送弦の適用は今回が初の実地確認で、これが成功したことで適用範囲はさらに多くの候補へ広がる。昼と夜の区別を超えて緯度方向の違いを分離できるようになり、系外惑星の気候を天気図のように描く最初の一歩になるという。

ウェイクフォード博士は「惑星は気まぐれで、大気は複雑で混沌としている。それだけの数値が揃い、1,000光年彼方の巨大な世界の構造化された動的な姿が見えたことが本当にわくわくする」と述べる。研究はNASA、英国研究イノベーション機構(UKRI)のSTFC、クラーマン・フェローシップの支援を受けて実施された。

査読済み論文はNature Astronomyで読めるほか、同じ内容の著者プレプリントもarXivで公開されている。詳細な経緯はブリストル大学のプレスリリースも参照できる。

SHARE