火星の衛星フォボスから10グラムを持ち帰るMMX、5年の旅が始まった

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日本の火星衛星探査機MMXが2026年10月20日午前4時41分、種子島宇宙センターからH3ロケット10号機で打ち上げられた。探査機は2027年8月に火星圏へ到着し、衛星フォボスへの着陸を2度行って最低10グラムのサンプルを採取、2031年に地球へ帰還する計画だ。火星圏からのサンプルリターンは世界初で、フォボスとデイモスの起源をめぐる長年の議論に決着をつけるデータが期待される。

10月20日午前4時41分、鹿児島県の種子島宇宙センターからH3ロケット10号機が上昇した。搭載されたのはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の火星衛星探査機MMX(Martian Moons eXploration)である。離昇後の飛行は計画どおり進んでいると、米Space.comなど複数のメディアが伝えている。日本の主力ロケットH3が惑星探査機を打ち上げるのは初めてで、The Japan Timesは探査機が打ち上げから1時間11分後にロケットから分離すると報じている。

MMXの目的は火星の2つの衛星フォボスとデイモスを観測し、フォボスのサンプルを地球へ持ち帰ることだ。往復を含めた飛行期間は約5年。JAXAは「火星圏からのサンプルリターンは世界初の挑戦」としている。

二つの起源仮説を決着させる10グラムの土

フォボスとデイモスはどちらも直径数十キロメートル程度の不規則な形をした天体で、その起源をめぐっては2つの仮説が対立している。NASAの説明では、2つの衛星は「若い火星に巨大天体が衝突して軌道に飛び散った破片の残り」か「火星の重力に捕らえられた古老の小惑星」のいずれかとみられる。

この違いは火星の局所的な話にとどまらない。NASAのMMXプログラムサイエンティスト、Tom Statlerは、答えが得られれば「地球と他の内惑星が水と有機化合物の多くを獲得していた時代を照らすことになる」と述べている。衝突説が正しければ衛星の物質は若い火星表面の条件を記録しているし、捕獲説が正しければ、水のような物質が太陽系の中をどう運ばれたかを示す手がかりになる。

さらにESAの資料では、2つの衛星の表面は長い年月にわたって火星のクレーターから弾き出された物質で覆われているとみられる。つまりフォボスに降りれば、火星に着陸しなくても火星由来の物質をサンプルに含められる可能性がある。MMXの主任研究者(PI)を務める倉本圭は、火星がかつて厚い大気と河川・海洋をどう獲得したのか、その鍵が炭素質小惑星に似た火星の衛星にあると説明している(JAXA)。

超低重力の着陸で使い分ける2つのサンプラー

MMXは推進・帰還・探査の3モジュール構成で、燃料込みの質量は約4,200キログラム(ESA)。火星圏到着後は、火星を周回する軌道に乗ったままフォボス近傍にとどまる準衛星軌道(QSO)に投入され、2027年から2030年までの約3年間、観測を続ける。

サンプル採取はフォボスへの2度のソフトランディングで行う。採取には2つの方式を併用する。JAXAのコアサンプラーC-SMPが地中のやや深い部分からコア状の試料を抜き取る一方、着陸脚に取り付けられたNASAの空気圧式サンプラーP-Samplerが高圧の窒素ガスで表面の物質を吹き上げて回収する。採取目標は最低10グラム(JAXA)。ESAの資料は、極めて低い重力条件での着陸と機動、天体表面での高度な採取技術そのものが、このミッションの技術的目的でもあるとしている。

着陸の前には、フランスCNESとドイツDLRが開発した小型ローバーIdefixを先行して降ろす計画だ。ローバーはラマン分光計RAX、小型放射計miniRAD、カメラを搭載し、着陸地点周辺の表面組成と温度を調べる(ESA)。

2027年8月到着、2031年帰還という長い道のり

ミッションの時間軸は長い。NASAの発表では、MMXは2027年8月に火星へ到着し、フォボスの詳細観測を経て2028年12月以降にサンプル採取を行う。その後も火星圏にとどまり、最終段階では2つ目の衛星デイモスを観測したのち、2030年に帰途につき、約1年をかけて地球へ戻る(JAXA)。サンプルを収めた大気再突入カプセルは2031年に本体から分離され、オーストラリアで回収される予定だ。

打ち上げから回収までの各段階には遠距離通信という共通の課題もある。JAXAは火星圏往復に必要な通信技術を確立するため、臼田深宇宙センターに新たな地上局を整備している(ESA)。

サンプルの15%はNASAへ、国際協力で支える世界初

MMXはJAXAが主導し、NASA、ESA、CNES、DLRが参画する。NASAはガンマ線と中性子を測定する分光計MEGANEを提供する。MEGANEは「眼鏡」を意味する日本語が名前の由来で、フォボス表面から放出される中性子とガンマ線を測って元素組成を割り出し、衛星の起源を特定する手がかりにする(NASA)。開発はジョンズホプキンズ大学応用物理学研究所が担当した。このほかNASAは深宇宙通信網(DSN)による追跡・通信を担い、帰還したサンプルの約15%を受け取ってヒューストンのジョンソン宇宙センターで保管し、数十年にわたる研究に供する。ESAは深宇宙通信用のトランスポンダと電力増幅器を探査機に搭載し、打ち上げ後は地上局ネットワークEstrackで運用を支援する。

NASAのニッキー・フォックス科学ミッション本部長は「MMXのサンプルは、NASAが初の有人火星ミッションを準備するなかで、今後何世代にもわたってパラダイムを変える科学をもたらす」との声明を出している。

将来の火星探査との接続も意識されている。ESAの資料は、フォボス上の着陸施設が将来の火星探査のデータ中継や宇宙環境の監視を担いうると指摘する。

2031年、オーストラリアで回収される小さなカプセルの中に、2つの仮説を分かつ答えが入っているのか。探査機は今後5年間、火星圏の観測と往復技術の実証という2つの任務を同時に進めていく。

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